最寄駅の小淵沢駅でタクシーを拾い、紅葉の山々を満喫しながら車に揺られること10分。ウッディな門構えのエントランスに到着した。「工場」という名に似つかわしくない自然溢れる場内にはバードサンクチュアリ(野鳥の森)があり、バードウォッチングも楽しめるようになっている。
木立を抜け、レンガ敷きの歩道をしばし歩くと「ウイスキー博物館」が見える。工場見学ツアーを希望する人はここで受付をすることになる。ツアーは30分ごとに行われているが、タイミングを外しても博物館内を見ていればあっという間に時間が過ぎてしまうので、心配はない。むしろ時間が足りないほどで、サントリーの懐かしCMが流されているブースなどでは集合時間を忘れてしまいそうになるので要注意だ。
さて、いよいよ見学開始。工場に入った途端、パン生地のような香りが鼻をくすぐった。ウイスキーの甘い香りを期待していたので驚いたが、これは麦汁(麦芽と水を混ぜ、ろ過したもの)の発酵臭だそうで、この工程を経た後「蒸留」を2度繰り返してようやく原酒になるという。
「蒸留」という言葉が出たので、すかさず「すみません!蒸留ってなんですか!!」と小学生ばりに質問。こんな中年の問い掛けにも懇切丁寧に答えてくれるガイドさん。なんでも、沸騰させたアルコールの蒸気を冷やして再びアルコールにする作業ということらしいが、何故そんなまどろっこしいことを思いついたのか。いったい何がキッカケだったのか。この"魔法"には謎が尽きない。
最後に訪れたのは貯蔵庫である。ひんやりとした穴倉に足を踏み入れると、慣れ親しんだウイスキーの香りがする。飲めない人ならこれだけで酔ってしまうんじゃないかと思うほどの濃い香りだ。この場所で何千という樽たちが静かにデビューを待っているのである。中に「1973年」と書かれた樽があった。人間なら加齢臭が漂いはじめる年齢だが、ウイスキーは年を重ねるごとにいい香りになるというんだから羨ましい。私もウイスキーのような人になりたいもんである。
ここで見学は終わりとなり、次は酒工場ツアーのメインイベントであるところの試飲タイムである。私の好きな言葉ベスト5に入る「試飲」。しかも、こちらではおつまみまで用意されておりました。サントリー、万歳。白州、愛してる。
3種類のウィスキーをガッツリ堪能して勢いづいた私は、有料コーナーに移り「響30年」もいただいた。ショットで2000円(他所で飲んだらもっとします。むしろお得)。また、限定モノに弱い私であるからして、白州蒸留所でしか買えないという特別なウィスキーも購入。
この時点でかなりいい具合になっていたのだが、博物館横のレストラン「ホワイトテラス」が目に入ると自然に足がそちらへ向いてしまう。店員さんの笑顔に案内され、森の木々が見える窓側の席に通されるとそこには驚愕のメニューが。
「サントリー白州10年(シングル) 200円」
きょうび、浅草の立ち飲み屋でもこんな値段設定はない。ほんの一杯だけのつもりだったがこれには参り、おもわずスモーク盛り合わせ(お得)とスモークリブ(激ウマ)も注文して、飲むこと1時間半。心身ともにすっかり満足した私は、再び木立を抜け工場を後にした。
普段、我々は消費をするだけで「過程」を忘れがちだ。今回の工場見学で、その一部でも知ることができたのは収穫だと思う。ガイドさんのお話や職人さんたちの仕事っぷりを思い出しながら、帰りの特急の中でお土産に買った「北杜12年」をふと取り出してみる。瓶の中で揺れる琥珀色の液体は、いつもよりも美しく見えた。
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